ご挨拶

8月20日から長期の出張に出ておりました。後半は来年の写真展の件もあり大阪・京都・名古屋を転々と。行く先々で美味しいご当地グルメとお酒をいただいて、心もお酒も充足した日々でした。そこで感じたことですが、まちはそれぞれ個性に溢れているなと。もちろん全国チェーンの店やフランチャイズなどの有名店、さらにはSNSで話題の店などは避けて、あえて冒険、探検するかのように初めての店に飛び込んだりするわけですが、そういうときにそのまちの個性をそのまま体現したような店に当たるととても気持ちのいいものです。旅先で食・酒を楽しむのは、まさにその土地(ところ)を丸ごと味わうということなのですから。そんなことで今日もお腹いっぱいの清水哲男です。
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清水哲男のサンクチュアリ 分家無邪気@東千石町, 鹿児島市
この居酒屋で幾晩過ごしたことだろう。ここは鹿児島でのぼくの居場所だと言ってもいいくらいの店だ。「ほーらね!」とぼくを指差しドヤ顔をするのは大将兄弟の弟のぶさん。ナイター中継でジャイアンツがタイガースを逆転した瞬間だった。壁面はジャイアンツ選手のサイン色紙やサイン入りのグッズで飾り立てられている。熱狂的ジャイアンツファンの店なのだ。そのカウンターで虎キチのぼくは串焼きをかじり焼酎を飲(や)る。昭和29(1954)年開店。もうすぐ70年になる。のぶさんもぼくもこの店と歩調を合わせて育ってきたことになる。歴史という時間は庶民のためにある。そんなことを教えてくれる店だ。串焼きと味噌おでんがいい。刺身も鳥刺しもいい。なんだっていいのだこの店は。ただしジャイアンツファンであることを除けば。

今回からタイトルを「清水哲男のサンクチュアリ」とします

INDEX

  1. 清水哲男のサンクチュアリ 分家無邪気
  2. Prof. 田川の揺れる音楽道「collapse:The scenery of a nuclear power plant」
  3. 揺れて歩く人々の問い vol.65
  4. しみてつコラム「お迎えがきたよ」
  5. ご購入のご案内

「Koneちゃんのプチボタニカル日記」は執筆者都合により今回もお休みします。

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Prof. 田川文彦の揺れる音楽道

collapse:The scenery of a nuclear power plant

collapse
https://soundcloud.com/yurete_aruku/collapse-the-scenery-of-a
The evil system created by tyranny began to collapse, March 11, 2011.
崩壊
為政によって生み出された悪のシステムは、2011年3月11日に崩壊しはじめた。
https://soundcloud.com/yurete_aruku

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揺れて歩く人々の問い vol.65

「あなたはトイレに新聞や本を持って入る派、入らない派? 持って入ることを許せる派、許せない派?」


こんな質問が届きました。「僕はトイレに新聞を持って入るのですが、家族にひどく叱られます。『後が見られないじゃない! 汚くて!』って。でも僕には活字が必要なんです。みなさんはどうなのでしょう?」
ということで、あなたはトイレに新聞や本を持って入る派、入らない派? 持って入ることを許せる派、許せない派? さてどちらでしょう。
ーー
Y.Sさん
トイレにモノは置かない派です。
風呂も同じく‥衛生面の仕舞いとしてです。
ーー
F.Tさん(春日井市)
許せるけど5秒で出るもん、トイレ。
ーー
M.Fさん(京都市)
便秘気味の人は欲しくなるのかもしれませんが、新聞とか共有で読むモノは持って入って欲しくないですね。(私は)トイレに長居することがないので必要性がないし…。
ーー
H.Cさん(北名古屋市)
入らない派ですね。持って入られるのは嫌ですね。他人でその方の私物ならオッケー👌、笑。因みに隣の新聞記事のご主人はトイレで本を読む人でたくさんの読み物が並んでいるのだそう。
ーー
K.Tさん
トイレカ~……? 本棚欲しいけど狭すぎて、ドアは開放です!犬が勝手に開けますので。
ーー
T.Kさん(対馬市)
自分ちは持ち込まない派なので、家でやられると少し違和感があるけど、他人が自分ちでやるのは一向に構いません。
ーー
詳しくは
https://www.facebook.com/groups/1651099238372682/permalink/2717292731753322
よりどうぞ。
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しみてつコラム

お迎えがきたよ

ご近所の毎朝の光景だ。
「あかあさん、お迎えが来ましたよ。今日も一日元気でね!」
娘が高齢の母親をデイサービスに送り出すのだ。車椅子の母親は雨の日も風の日もそうやって、きっちり同じ時刻に出かける。娘は見送りをすませると、慌てて車で出勤する。周辺でその見送りの声や物音を時計がわりにしている人も多いだろう。ぼくもそのひとりだが、ぼくはその声を聞きながら祖母のことを必ず思い出す。

祖母すみ映は明治生まれの頑固な気骨の人だった。男まさりで曲がったことが大嫌い。道路にタバコをポイ捨てしようものなら相手が地回りのヤクザであっても叱りつけ、自転車の二人乗りは仁王立ちになって行く手を阻んだ。土地(ところ)では〈清水はんとこのお家はん〉と名前を轟かせ、恐れられる存在だった。そんな祖母のことをぼくは「あーちゃん」と呼び、厳しく育てられた。
いつのことだったかは忘れたが、多分あーちゃんが今のぼくぐらいの歳の頃だったと思う。あーちゃんは墓参りに行くといって、親戚のおばさんが迎えに来るのを玄関先で待っていた。約束の時間をかなり過ぎていたのだろうか、
「てっちゃん、表まで行っておばちゃん来やへんか見てきとくれやす」
と不機嫌に言った、いや命じたんだ。家を飛び出すと通りの向こうからおばさんが小走りでやってくるのが見えたので、ぼくは玄関を振り返り大声で言った。
「あーちゃん、お迎えがきたよ!」
するとあーちゃんは鬼瓦のような顔で表に飛び出してきた。
「なんちゅうこと言うんや! この子は!」
そう言ってぼくの頭に拳骨を一発くれた。
「なにすんねん!」
ぼくが言い返す。騒ぎに驚いて飛び出してきた母にあーちゃんは怒鳴った。
「ちぃちゃん(母千鶴の愛称)、あんたこの子どないな育て方してはりますねん。この年寄りに向かってお迎えがきたやなんて」
事情が飲み込めない母があーちゃんにたずねた。
「お迎えて、おかあさんどちらに行かはるんですか?」
「あんたまで……。墓参りやがな!」
「お墓参り……。ああ、そらあきませんなあ」そう言いながら母はぷっと吹き出した。「これてつお、謝っときなさい。あんたが悪いわ」
そこへ叔母がたどり着いた。
「遅なりました。すみません。ほなねえさんお墓に参りましょか」
「あんたらみんなぐるか! 今日の墓参りはやめや!」
そう言ってあーちゃんは家の奥に消えた。
その時ぼくは「お迎え」のどこが悪いのか分からなかったし、まわりの大人たちに聞いても笑うだけだった。「お迎え」というのは「あの世からのお迎え」つまり「死」を意味することだと知り、たしかに使うべきじゃなかったなあと思ったのはずっと後になってからのことだ。しかもこれから墓参りに行く人に、余計にお迎えはなかったなあと。それ以来ぼくはあーちゃんに対して決してその言葉を使うことはなかった。
その言葉を使ったのはそれから20年ほど後、祖母の方からだった。
脳溢血で倒れた彼女を病院に見舞った時のことだ。
祖母は悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「ようやくお迎えが来てくれたわ」と。
「そんなこと言わんと頑張って元気になろうな。みんな待ってるで」
「そんな心にもないことを……。うまいこと言うて、あんたも大人になったなあ」
憎まれ口をたたける間は大丈夫だと言いかけた時、祖母が言葉を継いだ。
「この歳やからな、いつくるかいつくるかと待ってたんやがな、お迎えを。ようやくやわ」
それから1週間を待たずに祖母は他界した。明治、大正、昭和、平成の4代を生きた86年の人生だった。

「あかあさん、お迎えが来ましたよ。今日も一日元気でね!」
今朝も明るい声が響いた。その声がこの先もずっと長く毎朝聞けたらいいな。そんなことを思いながら今日一日をはじめた。

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