INDEX

  1. 横目流し目 「百年の孤独」はSFだ!
  2. Prof. 田川の揺れる音楽道 Uplift and subsidence:A Message from the Earth
  3. 清水哲男のサンクチュアリ 少年京都@西天満, 大阪市北区
  4. 揺れて歩く人々の問い Vol.82
  5. しみてつコラム「トシユキくんの家3」
  6. ご購入のご案内

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横目流し目 「百年の孤独」はSFだ!

「百年の孤独」ISBN978-4-10-202512-9 C0179

今更ながらですが、文庫化されたということで「百年の孤独」(G・ガルシア=マルケス)が話題になっているそうです。100年、5代だったか6代だったか、ホセ・アルカディオ・ブレンディアとウルスラ・イグアランという夫婦に端を発するある一族の物語を通して、人生とは何かを描く物語です。人生を、あるいは人が生きるということを、シュールな視点も混ぜこぜにして文庫本で650ページを割いて語るという大河ドラマのような感じが好きで、僕は何度となく読みかえしています。好きな物語なンです。
同じように好きで数えきれないほど読み返している本に「老人と海」(E・ヘミングウェイ)があります。こちらは「百年の孤独」とは対照的にたった一晩の出来事で人生を語り尽くしてしまいます。文庫本では170ページに満たない長さです。しかも、「老人と海」は、それまでアメリカ文学をケチョンケチョンにこき下ろしていた福田恒存の翻訳です。イギリス文学、シェークスピアに取り憑かれていた福田にとって、この「老人と海」はアメリカの文学を見直すきっかけになったそうです。アメリカ文学などというものはハリウッド映画に原作を供給するためにあるなどと言って馬鹿にするような人だったそうです。いや、表現が悪いですね。軽く見ると言った方が良さそうです。
で、この文庫版「百年の孤独」がめちゃんこ売れているそうです。1967年にアルゼンチンで初版が刊行されて、これまでに46言語に翻訳され、全世界で5000万部が売れているとか。その上にまた日本では文庫版が出版されるのです……。売れた数は必ずしも読まれた数と同じにはなりません。ベストセラーで数百万売れた本は、しばらく時間が経つとなんとかっていうセコハン本流通に大量に出回るとか。僕は常々本は知識の集積だと思っているので、売れるのはいいけど売れた後に売られるというのはちょっとさみしい気がします。
そういう僕だって、文庫版「百年の孤独」を買ったひとりです。単行本を持っているので、文庫で読み直そうと思ったわけではありません。実は筒井康隆の解説が読みたいと思って買ったのです。
文庫版が出ると聞いた時、解説はマルケスフリークの池澤夏樹さんくらいかなと思いましたが、まさか筒井さんだとは……。しかし思い返せば筒井さんの「虚構船団」(1984年・新潮社)を読んだ時、なぜだか「百年の孤独」が頭の中をぐるぐるしていた記憶があります。だから筒井さんの解説を読むために文庫版「百年の孤独」をポチったのです。
筒井さんの解説は期待を裏切りませんでした。というより僕の読み方があまりにも筒井的だったのでとてもうれしくなってしまいました。リアルな日常とシュールの混在。僕は初めて「百年の孤独」を読んだ時、これはまともに読んではついていけないな。そうだSFとして読もうと思った記憶があります。SFなら何が起きたって当たり前だから、と。そう思いながら読みだすと、これが面白くてたまらなくなった。同じ人生を語っても、ヘミングウェイ「老人と海」は文庫本にするとあんなに薄いのにとても重く苦しい。「百年の孤独」はとても分厚いのに楽しいとは言えないけど、魅惑的なのです(あくまでも個人の感想です)。で、何かに似ているなと思うわけです。それが「虚構船団」だったのです。
解説の中で筒井さんも言ってるけど、物語としてはガルシア=マルケスが次に書いた「族長の秋」の方が、僕は断然好きです。筒井さんの「俗物図鑑」(1972年・新潮社)並みに破茶滅茶なのです。「百年の孤独」も結構破茶滅茶だけど……。
お尻の穴にダイナマイトを突っ込んではらわたをぶっ飛ばす男の話なんて、マルケスか筒井さんにしか書けないんじゃないか。どういう繋がりがあるのかわからないけれど、そんなことを改めて思わせてくれた「百年の孤独」の文庫化でした。
巻末に寄せられた筒井康隆の解説

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Prof.田川の揺れる音楽道

Uplift and subsidence:A Message from the Earth

https://www.youtube.com/watch?v=H4S6pNivpDo
Uplift and subsidence:A Message from the Earth
On January 1, 2024, the Noto Peninsula shook as if the earth had awoken from a deep slumber, or rather, as if it had caught its breath. Faults shifted suddenly and in succession, causing the ground to rise and sink dramatically. It felt as though the earth was passionately revealing its own emotions. Perhaps it was nature sending a message to humanity: “This place is dangerous. Do not build nuclear power plants here. This is not the end.”
隆起と沈降:大地からのメッセージ
2024年1月1日、能登半島はまるで大地が眠りを覚まし、いや、息を吹き返したかのように激しく動いた。断層が一気に、連続して動き、大地は大きく隆起し沈降した。それはまるで大地が自分自身の心情を激しく吐露しているかのようだ。あるいはそれは自然が人間に送るメッセージなのかもしれない。「そこは危険だ。原発など建ててはいけない。これが終わりではないのだ」と。
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清水哲男のサンクチュアリ

少年京都@西天満, 大阪市北区

鹿児島からも大勢の仲間が開店に駆けつけた

好きな店が1軒、鹿児島から消えた。東千石町文化通り沿いにあった少年京都だ。
2016年秋のオープン直後からちょくちょく覗いていた。立ち飲みの店だが奥のカウンターには椅子が備えられている。しかしそこは少々高いワインを開けないと座れないのだ。だから当然僕は立ち飲みに陣取ることになる。
僕がここを気に入ったのは、第1に日本酒の種類が多いこと。しかも僕の大好物である田酒が必ず置いてある。そのほかにも大体10銘柄近くは揃えてあるかな。ま、僕は田酒しか飲まないけど。第2につまみがうまいこと、しかも日本酒に合うつまみがうまいことだ。鹿児島では滅多にお目にかかれない鮭の氷頭酢や鮎のウルカ。数の子なんてのもある。鯨のたれは絶品だ。これは千葉県南房総地方で江戸時代から伝わる伝統的な鯨肉の食べ方で、鯨の赤身肉をたれに漬け込んで天日で干したもの。これに柚子胡椒を乗せて食べる。実に酒に合うのだ。僕は寄ると必ず氷頭酢と鯨のたれで延々と田酒を飲む。そしてマスターの橋田英二さんとなんやかやおしゃべりする。酒やつまみの話はもちろん、音楽、本、映画そしてちょっとエッチな話など。そんな楽しい店だった。
だけどこの7月20日に店じまいし大阪に移転してしまった。大阪のオープンは7月24日だった。
マスターの中に鹿児島に対するあるいは天文館に対するいろんな思いがあることは聞いていた。そうして大阪という新天地で新しいチャレンジをするんだと。いいじゃないかと僕は思う。大阪の少年京都がオープンした翌25日、取材で北陸・京都を回っていて時間が空いたので覗いてみた。大阪西天満は天神祭の喧騒の中にあった。そんな街も新しい少年京都も活気が溢れていい感じだった。オープンには鹿児島の常連や仲間も大勢きたそうだ。マスターを慕う、いや好きなんだね。鹿児島東千石町の店同様、いや一層と言った方がいいかもしれない、いい時間と空気が流れていた。別れ際
「また来るよ。どこに行っても頑張ってね」というと
「闘い抜きます!」と返ってきた。
頑張れ! 俺はもう少し鹿児島で頑張るよ! そんな思いを新たにして店を後にした。


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揺れて歩く人々の問い vol.83

最近読んで面白かった本は? 反対に面白くなかった、期待外れだった本は?


紙の書籍が売れなくなって久しいと出版社や本の流通業界、本屋さん、そうして物書き仲間の間ではよく言われることです。でもね、本当のことを言うと、あまりにも出版点数が多いのじゃないかなと思ってしまいます。だから本当に面白いものが埋もれてしまって、宣伝力や話題作りに力のある大手出版社の本しか目に止まらないじゃないかなって。ん!? それはあなたの僻みでしょって? そうかもしれません。いえ、そうですね……。そこであなたにおたずねです。
最近読んで面白かった本はありますか? 反対に面白くなかった、期待外れだった本はありますか? ジャンルは問いません。どうぞお気軽に。
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T.Fさん
面白かった本:写真左「できるだけいつものように 高橋幸宏」
面白かったというか……泣けました。
期待外れだった本:写真右「なんだか今日もダメみたい 竹中直人」
そんなにダメじゃないところが期待外れです。ダメに関しては、ボクやYまちゃんや……、その他数名の人たちのほうが傑出……、いや、凌駕……、違うな、当代無双……、もっと違うな🤣 なんと言いますか…とにかくダメです。
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C.Hさん
面白くなくて途中で読むのをやめたのは村上春樹の…タイトルさえ覚えていない本です。読んでてイライラしてきて、それ以来この人の本は読んでいません。面白くて何十回も読み返したものは沢山ありすぎて挙げられないほどあります。例えば野坂昭如のアメリカひじきとか…。何度も読む中で、もっと作者の心を感じたくて音読するのも好きです。
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M.Fさん
筒井康隆の作品『旅のラゴス』。はじめて読んだのはちょうど神戸の震災の3日程後でした。周辺の家が潰れたりで心の落ちつかない状況で読んだ。当時は筒井康隆の作品がめちゃくちゃ好きな私なのに、あまり満足出来なかったのを覚えています。
つい先日図書館で久々に見かけて読み直してみようと手に取ったところ、全く違う気持ちになりました。当時の状況を考えたら心に響かなかったのも無理はありませんね。
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K.Hさん
「誰か、たすけて!」好きです。全部ショートムービーになりそうです。
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今回コメントを寄せていただいた方、ありがとうございます。詳しくはこちらをどうぞ。
https://www.facebook.com/groups/1651099238372682/posts/2968413299974596
次回83回目の問いかけは、折を見て「揺れて歩く人々の対話テーブル」にアップいたします。
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しみてつコラム
トシユキくんの家3

たくさんの花が備えられていた:輪島市中心市街地

トシユキくんの実家のある門前町道下から輪島市の市街地までは、普通なら国道249号を北上すれば小1時間で着く。しかし249号は地震の被害であちこちで寸断され、どれくらい復旧工事が進んでいるかわからないとトシユキくんが言うので、僕らは時間をかけて一旦県道7号を穴水まで走り、そこから七尾と輪島を結ぶ県道1号に乗り換えることにした。
相変わらず沿道には地震の爪痕が残っていたが、それは輪島の市街地が近づくにつれ大きく激しくなっていった。市街地に入ると沿道の家々は破壊され無傷で立っているものなんて皆無だと思われた。僕は車中からシャッターを切るのも忘れ、ただ茫然と流れいく風景を眺めていた。
輪島市の中心市街地に着いた。多くの車が行き交う。仕事なのか復旧作業なのかわからない。でも、これだけ傷ついた街に多くの人がいて、暮らしている紛れもない事実だと思った。そして表情は思った以上に明るかった。みんな前を向いている。そんな印象だった。
火事で焼け落ちた朝市通りに行ってみた。警察や消防の立ち入り制限を示す黄色や赤いテープが張り巡らされていた。ギリギリまで近づくために港側の浜通りに行ってみた。そこからは火事の被害にあった一帯が見渡せた。
焼け跡に供えられた花束の前で静かに手を合わせる女性がいた。長くうつむき加減で目を閉じ手を合わせている。長い時間だ。おそらくここで近しい人が亡くなったに違いない。普段の僕ならその人の横顔を貪るようにカメラに収めていたはずだ。だけど結局は1回もシャッターを切ることはできなかった。その表情と風景に心を射抜かれたのだ。僕はここにいてはいけない。
すぐに移動をはじめた。道すがら報道でよく目にした横倒しに倒壊したビルの前を通った。車を降りて写真を撮った。この風景だけを見ると、7カ月経っても何も変わっていないなと思った。
でもこのまちで暮らし、生きている人が確実にいる。写真を撮る僕の横を犬を連れて通り過ぎていくおじさんが「こんにちは」と声をかけてくれた。こんにちはと返したが、通り過ぎていく笑顔が僕には悲しかった。おじさんは自分に起きたことをちゃんと受け止めている。笑顔の向こうにどんな悲しみや苦労があるのかはわからない。でも、どうぞ頑張ってと思わずにはいられなかった。
空はとても青く澄んでいた。その色がまたしても僕の心を激しく射抜いた。空の青さがここで起きた悲しい出来事の痛々しさに拍車をかけているように思えた。
このビルの倒壊で隣の建物が押し潰された。2人の人が犠牲になった

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最後までおつきあいありがとうございました。
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次号は8月23日(金曜日)配信予定です。
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