INDEX
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横目流し目 ちょうどいい日
「パーフェクトデイズ」を観ました。役所広司主演の映画です。主人公は東京の公衆トイレ清掃を仕事としています。しかし彼の人生の背景は、まったく語られることはありません。それを思わせる出来事が風景として描かれるけれど、決して深掘りはしないし、説明もありません。彼だけではありません。登場するすべての人々が、それぞれの日々をただ淡々と重ねている。そんな映画です。
だけど、ひとコマひとコマを通して、とてつもなく深い人生を見せられているような気分になりました。人の人生は、それがどのような人であってもドラマに満ちている。生きるということ自体がドラマなんだと思えます。
かなり長い期間、全国47都道府県の地方紙が主催する「自費出版大賞」なるものの審査員をしたことがあります。そこで学んだことは、「私の人生は波瀾万丈だ」「私の生き様はドラマだ」と豪語する人の人生に限って、とても平凡で陳腐だということでした。「私の人生なんて、平凡でどこにでもあるようなもの」という人の人生を少々掘ってみるととんでもないドラマが隠されているのです。そんなことを思い出しながらこの映画を観ました。
影は重なると濃くなるのか……。そんなことを確かめようとふたりの男が夜、影踏みをします。そしてまたいつもの日々がやってくる。主人公は仕事の現場に向かう車を運転しながら、笑ったり、泣いたり、さまざまな表情を見せます。それがなんとも言えず豊かな表情なのです。そこで映画は終わります。豊かな表情は、いいことも悪いことも含めて、彼の人生が豊かだと言っているように思えました。
「パーフェクトデイズ」の〈perfect〉を、「完璧」とか「申し分のない」とかだと受け取ると意味はわからなくなります。これは〈Just right〉、「ちょうどいい」ってことです。主人公はきっと自分にとっての豊かさとか幸せとかを知っているのでしょう。「足を知る」ってことでしょうか。
僕には永遠に無理なような気もしますが。
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Prof.田川の揺れる音楽道 #75
Möbius〈メビウス〉
https://www.youtube.com/watch?v=16ftbrLYrKc
Möbius
Who chases whom on the endless loop, the Möbius strip? A journey from start to finish, only to find oneself inverted. It’s a world reflected, a mirrored realm. Indeed, the Möbius strip is the solitary path to this mirrored world.
メビウス
メビウスの帯の上で追いかけっこをしているのは誰だ。はじまりから終わりまで。たどり着くとあべこべの自分がいる。まるで鏡の国だ。そう、メビウスの帯は鏡の国への1本道だ。
音楽:田川文彦
写真:清水哲男
制作著作:office432
©️office432&F.Tagawa, T.Shimizu 2024
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清水哲男のサンクチュアリ
大衆酒場 平八本店@阪急十三西口,大阪市淀川区
予てより思っていた。大阪の居酒屋の破壊力はすごいと。すべてがすべてというわけではないが、酔客の中でそこそこ名の知られた居酒屋はそうなのだ。そういった店がキタやミナミの繁華街だけではなく、どこの駅前やターミナルにもあるのだ。京都が体裁を気にする土地柄だとすると、大阪は実質を大切にする。コストパフォーマンスどころの話ではない。徹底的に安くてうまいを目指すのだ。
阪急十三駅西口を出たすぐのところ。小さな通りの両側にそんな店々が軒を連ねている。その多くが昼間から営業している。目的の店が開くまでにはまだ時間があったので、そんな店の1軒大衆酒場平八本店に飛び込んだ。まだ午後2時を回ったところだったが、店内はほぼ満席だった。
テーブルに置かれた大きいメニューと壁に張り巡らされた品書きを見る。安い。それは表に出されたメニューの看板を見てわかっていたことだったが。ビンビール460円、生ビール410円、酒300円〜、ハイボール490円、焼酎330円、チューハイ320円〜、串カツ80円〜、おでん100円〜と、飲み物だけでも京都の店と比べると100円〜200円安い。肴もだいたい500円まででOKだ。この日いちばん高かったのは馬刺し850円だ。鯨造り650円、クジラベーコン600円くらいが目を引く高さだった。
我々は、どて焼き450円、あん肝480円、とり皮370円、鯨造り650円、豚キムチ480円、そしてとん平焼き380円と順調にこなしていった。この後まだ数軒行く予定だったが、すでにいっぱいいっぱいの状況になりつつあった。
安くてうまいこの店で僕が一番気に入ったのは、客を絶対に待たせないということだ。店員の全神経が客に向けられているかのような感じだった。呼んでいる客のテーブルにすぐ向かえなくても「少々お待ちください!」の声が飛ぶ。注文した料理が運ばれてくるにもそう時間はかからない。「2時間制です」と言いながら散々客を待たせる店も少なくない。ここはそういうフラストレーションがないのだ。
「さすがだな」そんな思いで次の店を目指した。
大衆酒場 平八本店
〒532-0024 大阪府大阪市淀川区十三本町1丁目2−22
TEL:06-6300-0926
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揺れて歩く人々の問い vol.88
今年のベストバイ教えてください。
あるいは、これは大失敗ワーストバイも!
こちらは清水哲男の買い物の一端。
なんだかややこしい時代です。ブラックフライデーだとか、プライムセールとか、タイムセールとかでソワソワし、必要以上のものも買い込んじゃう。あるいは、期限切れ間近のポイントを無駄にしちゃあいけないとか、品切れ必至! 残りわずか!とかの言葉に追い立てられて、ないはずの袖をクレカという袖に置き換えて振りまくってしまう有様……。振り返ると後悔と瓦礫の山などということも珍しくないかと。そこであなたにおたずねです。今年買ったモノの中でこれはよかったというモノ、人にすすめたいモノ・コト、ありますか? あるいはこれは大失敗だったというモノありますか?
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高山富士子さん
昨日買って来た芝エビ殻付き2カゴ。1000円。
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古藤只充さん
ベストバイは外に漏れないオイルボトル785円。私は食卓で使うのでありがたい。
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後野典子さん
谷川俊太郎さんはあたしはあまり読んでなかったけど、この対談読んですご〜く面白い、達観したところのある人なんだなぁ、と再認識。
これからもっと詩を読んでみようと思っていたら亡くなられた😭
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今回からコメントの紹介にFBでのお名前を使わせていただいております。
今回コメントを寄せていただいた方、ありがとうございます。詳しくはこちらをどうぞ。
https://www.facebook.com/groups/1651099238372682/posts/3069108893238369
次回89回目の問いかけは、ありきたりですが「2025年はどんな年にしたいですか?」です。どれだけ大きいことでも、ちっちゃなことでも、なんでもいいです。〈揺れて歩く人々の対話テーブル〉でのご回答よろしくお願いします。
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しみてつコラム
『いい写真』
急に寒さが厳しさを増した頃、桂川沿いの京奈和自転車道を久世橋から嵐山渡月橋まで歩いた。曇り空の下を冷たい北風に向かいながら、8キロくらいの道のりだろうか。さすがに京都だな。紅葉が綺麗だなどと独り語ちながらゆっくり時間をかけて。
嵐山までは歩いている人はほとんどいなかったが、松尾橋を過ぎたあたりからポツポツと人が増え、渡月橋の手前に着いた頃にはごった返す人混みの中にいた。これだけ人が多いと周りの紅葉もありがたみ半減だ。しかもほとんど日本語は聞こえてこない。ここはいったいどこなんだ。俺はこんなところまで歩いて、何をしてるんだと自嘲してしまった。渡月橋の上は身動きが取れないほどだった。人混みが動く方に動くしかない。そんな感じだった。
これはたまらないな……。自然と人の少ない方に足が向く。住宅街に逃げ込むように入り込んだ。嵐山に着いたら紅葉の写真でも撮ろうかとカメラをぶら下げてきたものの、それどころではなかった。長い道のりだったのに、1度もシャッターを切っていないことに気づいた。JR嵯峨嵐山駅を越えて、そのまま新丸太町通りに出ようと思った。そこまで行けば人は少ないはずだ。
嵐電の踏切の手前だった。突然目の前に茅葺き屋根の古民家が現れた。珍しいな今時市内で茅葺とは。50年前なら、まだあちこちで見られたけど……。そんなことを思いながらカメラを向けた。ファインダーの中でその建物が畳屋であることがわかった。古民家で畳屋。なんだか絵になりそうだ。シャッターを切ろうとした時だ、軒下の撮影禁止の張り紙に気づいた。理由はわからないが、撮られることを拒んでいるのだ。僕はカメラを構えていた手を下ろした。珍しい風景だからな。散々撮られてきたに違いない。写真を撮られることで嫌な思いをしたのだろう。
目の前で自分の家の写真が撮られていれば、あまりいい気はしないな。映像権などとややこしいことを言うつもりはない。ただ嫌な感じ、気持ち悪いと言えばいいかな。自分の暮らしの場や、仕事の場をことわりもなしにバシバシ撮られるのはいい気分じゃない。自分に置き換えればわかることだ。
「そんな気の弱いことでいい写真は撮れないな」と笑われそうだが、少なくとも誰かの気分を害してとった写真など、どれだけ絵として素晴らしくとも、決して「いい写真」とは言えないのじゃないかな。僕はそう思う。
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