INDEX

  1. 横目流し目 逆転のマウンティング
  2. Prof. Tagawa の揺れる音楽道 #98
  3. 清水哲男のサンクチュアリ 誰かと黙って飲める店
  4. 揺れて歩く人々の問い
  5. しみてつコラム 「先生」と呼ばないで
  6. 清水哲男新刊書のご案内
  7. ご購入のご案内

「揺れて歩く人々の問い 」はお休みします。

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横目流し目 逆転のマウンティング

プロバスケチーム京都ハンナリーズの専用練習施設建設が進む旧塔南高校跡地

鹿児島では、出身大学ではなく出身高校でマウンティングするということがよくあります。学歴によるマウンティングは、大概の場合最終学歴が問題になりますが、鹿児島では出身高校なのです。
「あんた高校どこね?」。鹿児島では必ず聞かれます。残念ながら僕は京都の高校を出ていますから、校名をいってもわからないだろうなと思いながらも、京都市立塔南高校だと答えると、必ずなんだそれ!? みたいな顔をされます。どうせ京都の三流高校だろ、みたいな。
「有名校だったら鹿児島の鶴丸とかラサールみたいに、全国的に知られてるもんなあ」と。で、僕はマウンティングの枠の中に入れてもらえず、いつまでたってもよそ者だと区分けされるわけです。その方が楽ちんなのは間違いないですけどね。というか一緒にされたくないですもんねえ。
ところが、です。つい最近塔南高校の名が鹿児島のメディアでも報道されることがありました。なんだというと、今年のノーベル化学賞を受賞した京都大学の北川進さんは塔南高校の卒業生だったんですねえ。僕もびっくりでした。気づいた鹿児島の知人から「清水さんの出た高校って実はすごい学校だったんだ」と驚かれる始末です。おかげで僕は最上位にマウントされるわけです。でも塔南高校がすごいのではありません。まったく普通のなんの変哲もない高校なのです。すごいのは北川さんご自身の努力だと思いますよ。と僕は答えます。
それに塔南高校も他校と統合され消滅してしまいました。そう話すと僕のポジションも消滅してしまうのです。なんだかややこしいですねえ。逆転に次ぐ逆転です。マウンティングに一喜一憂するなんて、猿じゃないんだからどうでもいいじゃんと思ってしまいます。
ということで、今年も1年ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
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Prof.Tagawaの揺れる音楽道 #98

White Autumn

White Autumn—
the season of life’s full ripeness,
the hour of twilight.
A time when one carries
a gentle presence, a quiet bearing,
and delights in the harvest of a life lived.
Yet it is also a season
to tremble at the shadow of death,
to gaze upon the time that remains.
All people live
swaying between the self that is dying
and the self that goes on living.
White Autumn—
therefore, the fruits of life
are all the more precious.

music by F.Tagawa
phots by T.Shimizu
©︎F.Tagawa, T.Shimizu & office432, 2025

白秋
白秋、それは人生の円熟期。それは黄昏の時。
人として穏やかな空気やたたずまいを見せ、人生の実りを楽しむ季節。
一方で死の影に慄き、残りの時間を思い浮かべる季節でもある。
人は誰も、死にゆく自分と生きていく自分の間を揺れながら生きてゆく。
白秋。だからこそ、人生の実りが愛おしい。

音楽:田川文彦
写真:清水哲男
制作著作:清水哲男事務所
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清水哲男のサンクチュアリ
誰かと黙って飲める店

やたいや@西大路駅前店閉店に思う

新しい店に息子と一緒に行ってみた@あいよっ!西大路駅前店

西大路駅前のやたいやが、ある日突然、店じまいをした。予告も、名残惜しさを演出するような期間もなく、いつもの場所から灯りだけが消えた。前を通ってはじめて知ったのだ。その唐突さは、やたいやに馴染んでいた人にとっては妙に現実的で、だからこそ後からじわじわ効いてきたという人も多いだろう。
しばらくのあいだ、居酒屋難民になった人も少なくないはずだ。
飲みにいく店の選択肢が少なくなっただけではなく、帰り道に一杯、という習慣だけが宙に浮き、
「今日はどこで飲むか」
を考えること自体が億劫になった。ある常連はそう話してくれた。
「店がないというより、行く理由がなくなった感じだった」と。
そういう人にとってやたいやは、目的地ではなかった。誰かと約束して行く店でも、気分を上げるための店でもない。ただ、帰り道に寄って、座って、飲む。話してもいいし、話さなくてもいい。沈黙が続いても、居づらくない。そんな場所だった。
数か月後、跡地に新しい店が入った。名前は「あいよっ!」。
賑やかな響きに、少し身構えながら入ってみた。その瞬間、違いに気づいた。やたいやでは、グループ向けのテーブルが並ぶ一方で、ひとり用のカウンターがきちんと用意されていた。正午前から営業していた頃には、定食を注文しひとりで飲む客も少なくなかった。夕方になるとさまざまな客で賑わったが、印象としては若い層が多かった。新しいあいよっ!は家族連れ、仕事帰りのサラリーマン、年配のグループが多く、少々年齢層が高くなったかもしれない。駅前としてはなるほどと分かりやすく、正しい在り方の居酒屋だったと思った。
ただ、私はなんとなくだがやたいやが恋しいと思った。
誰かと黙って飲む、という選択肢が、そこにはないような気がした。沈黙はすぐに間延びし、何かを話し、何かに反応することが求められる。悪いわけではない。でも、求められている役割が違う。
やたいやが担っていたのは、酒を飲むこと以上に、言葉を使わずに過ごす時間だったのだと、そのときはじめて気づいた。
やたいやファンが失ったのは、串カツの味でも、手頃な値段でもない。誰かと一緒にいても、ひとりでいられる場所。沈黙が居心地として成立する、稀な空間だったのかもしれない。
あの灯りが消えたことで、西大路駅前から、ひとつの「静かな選択肢」がなくなった。
それは大きな変化ではないが、日々の終わり方を、確実に変えてしまう程度には、重要だったのだと思う。
誰かと黙って飲める店。そういう店を求めて彷徨いたい。
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しみてつコラム
生き方をゲージツに

泡沫(うたかた)|篠原勝之展@京都場

琵琶湖一周徒歩の旅の休養日にクマさん、篠原勝之さんの「泡沫(うたかた)」という個展を見に出かけた。クマさんは80歳を目前にし2019年、脳梗塞を発症した。それまでの彼は肉体派、鉄の芸術家として知られていた。自分でも「鉄のゲージツ家」と称していた。彼は「芸術」を「ゲージツ」と呼び、堅苦しい芸術の枠組みを解体しようとしたのだ。そんなクマさんは脳梗塞を得てリハビリに励み、鉄のゲージツに終止符を打ち、土のゲージツ家になったのだ。
今回の個展は土塊を捏ねて焼き上げた「空」としての作品、彼の言葉で言うと「手捏ねした土の空っぽを1240度の火力で焼いている泡沫」を中心に展示したものだ。並べられた作品はどれも、クマさんがそこに胡座をかいているようなふうに見えた。つくったのではない、クマさんの指先を通じて彼の生きる力が自然に伝わり、火と風の力で爆発したような。空とか泡沫ではなくクマさんが充満しているそんな感じだった。
「鉄に向いた体じゃなくなった」と彼自身が言うように、脳梗塞の後遺症で鉄のゲージツは無理になったのかもしれないが、それでも鉄以上に表現できる土を見つけたわけだ。人間が持っている生きる可能性を見せつけられた思いだ。
ところがその会期中に咽頭癌が見つかる。初期だったこともあり、集中的な放射線治療を経て元の「淡々としたいつもの〈うたかた〉に戻り、土を捏ね焼きはじめる」と宣言している(篠原勝之facebook 12月10日)。おそらく彼は、ぼちぼちゲージツにも戻るのだろう。
いいなと思った。なにがあってもやりたいことに向かっていく。悲壮感などない。争うのではなく、なにもかもを自分の中に取り込んで、軽快に吐き出していく。そんな生き方を僕もしてみたいと思う。
そんなことを知人に言ったら「もうやってるじゃないか」と笑われた。「二度の癌を乗り越え、70歳になったからと琵琶湖一周徒歩の旅に出るなんて、普通の年寄りじゃないね。普通の癌患者でもない」と。
それは光栄な味方だな。よしっ、僕はゲージツは生み出せないので、自分の生き方自体をゲージツにしてみるか。そんなバカなことを考えている。
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