INDEX

  1. 横目流し目 庭の雑木
  2. Prof. Tagawa の揺れる音楽道 #91
  3. 清水哲男のサンクチュアリ 池田バー
  4. 揺れて歩く人々の問い
  5. しみてつコラム
  6. 清水哲男新刊書のご案内
  7. ご購入のご案内

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横目流し目 庭の雑木


仕事場の庭に1本の木があります。庭の手入れなど全くしませんから、気づいた時には1メートルほどに育っていました。引き抜いてしまうのもなんとなく可哀想だなと思いそのままにしていました。すると1年もしないのにスクスクと育ち、夏には大きな日陰をつくってくれるようになりました。そうして3年ほど経つと庭の中でも一番の大木になってしまいました。
友人の庭師に名を尋ねると「名もない雑木だよ」と。「でもこういうのが一番と強い。生命力があるんだよ」と笑いました。「伐るかい?」とたずねられてしばらく考えましたがそのままにしておこうと思いました。すると庭師は「張りすぎている枝を整理だけしとこうね」と手際よく枝を打ってくれました。
ところがこの雑木、打っても打ってもすぐに生い茂ってしまいには庭全体を覆ってしまうほどに。他の庭木に陽が届かなくなってしまいました。
「こりゃあちょっと伐った方がいいなあ」庭師の言葉に従うことにしました。3メートルあまりに育った雑木は1メートルほどの高さでばっさり伐られてしまいました。しばらくすると伐った面から次々に新しい芽が出てふたたびスクスクと枝を張りはじめました。「もう庭中に根を張ってるよ。そのうち庭のあちこちから芽を出すからな」と庭師は笑いました。
伐られても伐られても新しい芽を出し枝を張る。夏から秋にかけては不恰好な花を咲かせ、冬には一旦葉を落としますが夏には大きく生い茂る。そうして地中では広く根を張っていくのです。
「人間と一緒だよ」庭師は笑います。「結局は名もないモンが一番強いのよ」と。ここにある庭木の中で一番強いのかと問うと、「世の中の何より強いのさ」と声をあげて笑いました。
たしかに……。この名もない雑木はやがて庭中から芽が出て、庭を飲み込み根を張って、建物を傾け壊し飲み込み、そうして隣の庭や家をも飲み込んでいくことでしょう。そうして無名の人々が暮らすこのまちを自然に還していくのでしょう。1本の雑木はそんな力を持っているのです。そんな雑木にとても憧れているのです。

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Prof.Tagawaの揺れる音楽道 #91


JAPANNING
From the earth, primitive prayers and spells welled up and eventually took root in daily life. Thus, they began to Japanize. As they spread widely, their ancient simplicity faded and they became Japanese.
日本になっていく
大地から沸き起こったプリミティブな祈りと呪術はやがて暮らしに根づく。そうして日本になっていく。大きくひろがる中で太古の素朴さは消え日本になっていく。
音楽:田川文彦
篠笛:加藤俊彦
写真:清水哲男
©︎F.Tagawa, T.kato, T.Shimizu & OFFICE432, 2025
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清水哲男のサンクチュアリ
池田バー@天文館, 鹿児島市山之口町


およそバーというものは……、と考えてみる。私の中にひとつの言葉が浮かぶ。「普遍」だ。時代が変わり、場所が変わり、人が変わっても、そこに流れる時間は変わらない。そこには人生を豊かにするための酒があり、出会いがあり、会話がある。そしていくつもの物語が生まれて消えて、また生まれる。物語の主人公は他の誰でもない。まぎれもなく「私」なのだ。あなたもそのひとり、私もそのひとり。バーはその物語の舞台なのだ。
鹿児島にもそんな舞台のひとつがある。池田バーだ。故池田輝志さんが1962年にオープンした。その後荒川和博さんが受け継ぎ今年で63年が経つ。輩出したバーテンダーは多く、さまざまな場所で物語の舞台を設えている。その間も池田バーは人がかわり、客がかわっても同じ空気に包まれ同じ時間が流れている。
私にはここで必ずオーダーするものがある。マティーニだ。荒川さんのつくるマティーニは格別なのだ。マティーニといえばジンとドライベルモットベースにしたショートカクテル。世間ではカクテルの王様などと呼ばれているらしい。たしかにシンプルだが奥行きはとても深い。10人バーテンダーがいれば10通りの味がある。ふたつの酒の比率、氷の量、ステアする回数、微妙な違いで微妙に変化する。それ故バーテンダーの腕が試されるのだ。
若い頃はベリードライ、つまりベルモットで氷を洗った程度でジンを注ぐという強いマティーニが好きだった。好きだと言っても味などわからなかったのだ。強いマティーニをクッと空けるのが一人前の男だと思っていたのだ。イキがっていたわけだ。だが歳を重ねるにつれその味の深みにはまり、強いだけではない味を求めるようになった。その終着が池田バー荒川和博のマティーニだった。おかげでようやく酒の味がわかるようになってきた、気がする。もうひとつ、毎年7月4日以降にしか楽しめないフローズンダイキリだ。そう、池田バーではヘミングウエイの命日を待たなければならないのだ。こういう設定も舞台にとって大切な仕掛け。すべてが物語のための設定なのだ。
時に荒川さんは厳しい人と評される。バーにはそれぞれ矜持というものがある。誇り、プライドと言い換えてもいい。それを守るためにいささか好まれざる客、わがままな客には少々厳しいからだ。もしそう感じる人はその舞台での自らの振る舞いを思い起こせばいいだろう。そして63年間大切にされてきた言葉ある。
“Candy is dandy but liquor is quicker” 「キャンディは素敵だけど、お酒の効きはずっと早い」
アメリカの詩人オグデン・ナッシュの言葉だ。キャンディの甘さ(無邪気さ)より酒の強さの方が人間の欲望には早く効く。そんな意味だろうか。酒飲みへのユーモアを込めた揶揄とも戒めとも読める。池田バーのコースターにはこの言葉が刷り込まれている。自分を忘れるまで酔うなと囁かれているようだ。酒とはゆっくり時間をかけて向き合うのだ。
舞台にはひとりで上がるのがいい。美味い酒と自分だけの物語に浸る。主人公は「私」というあなた。さて今宵どんな物語が描けるだろうか。

荒川さんのマティーニ
マティーニは時にオンザロックで
ジントニック
キンカン入りのジントニックはボンベイサファイヤで
クライヌリッシュのオンザロック。キュウリの浅漬けは「ロシア漬け」と呼ばれる
つまみもカレーやパスタ、サンドイッチなどの軽食までさまざまに用意されている


池田バー
鹿児島県鹿児島市山之口町10−20
第1二官橋ビル103

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揺れて歩く人々の問い
毎月のおこづかい(自由に使えるお金)はいくらですか? それを何につかいますか?

清水がお小遣いで最近買ったビーサン。3600円也

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Chi-b Hasegawaさん
毎月ギリギリで生きていますが、なんとか1000円は捻出して貯金しています。それをプールしておいて年に一回か二回、鰻などの贅沢なものを買って食べます。あと、携帯電話代を払って溜まるペイペイのポイント(まだ一度も使ったことがない)を何処かで使うのを密かに楽しみにしています。使えるお店が見つかっていませんが。
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中嶋紅さん
ナッシング
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Masako Fujiiさん
この秋も行きたいライブ目白押しで、チケット代とそれに伴う酒代に消えます。
珍太さん、菫さん、GWANさん&古藤只充さんのツアー2か所か3か所。
がんばって生活費を抑えます。ご飯は糸コンかさ増し、野菜は常備してる干し野菜を使いまくって財布の紐しっかり締めて備えます。
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コメントいただいた皆さん。ありがとうございました。コメントは以下のページからもご覧いただけます。
https://www.facebook.com/tetsuo432/posts/pfbid0E5CwVqJKmmxvTHVjg7kL2ctgqZRAZRTXUN8par913cy7EoWa7AL75AC5WofGDvWzl
次の問いは次回ライブ配信時にお知らせします。〈揺れて歩く人々の対話テーブル〉でお気軽にコメントくださいね!
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しみてつコラム
『あーちゃんのカレー』

久しぶりに食べた夏野菜たっぷりのカレー

久しぶりにカレーを食べた。歳をとったせいかこのところカレーからは遠ざかっていた。別に嫌いなわけではない。食べたあと胸焼けして仕方ないのだ。だから人が食べているのを見ても食べようという気にならなかったのだ。久しぶりに食べてみようと思ったのは、それが夏野菜たっぷりのカレーだったからだ。それは私にとって懐かしいものだったのだ。
今なら珍しくもないが60年以上前のこととなると……。カレー粉というと缶に入ったパウダーしかなかった。インスタントのカレーなど出回っていなかった頃だ。家でカレーを食べるとなるととても手間のかかることだった。
祖母は夏になると「暑い日はカレーや」と言い朝からカレーをつくりはじめた。カレー粉を小麦粉と一緒にフライパンで炒って、そこにいろんな具材を入れさらに炒め水を足して煮込んでいく。具材はナス、インゲン、冬瓜、シシトウ、トマトそれにニンジン、豚肉だったと記憶している。仕上げにミョウガなども入れていた。ピーマンはすでに出回っていたが祖母は、あれは洋野菜だと使わなかった。ニンジンもオレンジ色のキャロットではなく真っ赤な金時人参だった。オクラが京都で出回るようになるのはずっと後になってからのことだ。
様々なスパイスを入れてといきたいところだがそんなものはなかった。コショウと粉山椒、唐辛子くらいか。塩と醤油、ソースで味付けしてたっけ。最後に水溶き片栗粉でとろみをつけていた。どんな味だったか記憶は曖昧だが、とにかくうまかったのだ。今夜はカレーだと聞くとうれしい気分になったことは覚えている。それが『あーちゃんのカレー』だ。だがそんな祖母も私が大学を卒業する頃にはカレーをつくらなくなった。面倒臭いというのが理由だった。便利で簡単なインスタントもあるよとすすめたが、「あんなもん……」といっさい手を出さなかった。日露戦争が終わった年に生まれた明治の女(ひと)だ。頑固だった。しばらくして私は祖母や家族のもとを離れてひとりで暮らすようになった。『あーちゃんのカレー』は記憶の隅に追いやられて思い出すこともなかった。
昭和が平成にかわった夏だった。父から電話があった。「お袋がカレーをつくると言うてる。きてくれへんか」と。
その夜実家に戻ると父の兄弟や従兄弟たちも集まっていた。みんな『あーちゃんのカレー』を待っていた。そんな感じだった。祖母はその日、昔のように朝からカレーをつくりはじめたそうだ。みんなあれこれと『あーちゃんのカレー』にまつわる思い出話に花を咲かせできるのを待った。
「お待たせしました」と給仕役の母と叔母が皿を運んできた。それを見てその場にいた誰もが言葉を失った。明らかにカレー粉が入っていない白いカレーだったのだ。叔父が何か言おうとした。父はそれを手で制して言った。
「黙って食え」
誰もがそれに従った。無言でカレーを食べた。
「どうえ?」祖母が走りから顔を出した。誰もが言葉に困ったが、父がひとこと「ありがとう」と言うと祖母は満足そうに走りに戻って行った。
「認知症が進んでるんや」父が言った。みんな黙り込んだ。具材を煮て水溶き片栗粉でとろみをつけただけのカレー。それはまずいと言うより悲しい味のカレーだった。
それから10日ほど経った朝、祖母は脳溢血で倒れた。秋口まではなんとか頑張ったが静かに息を引き取った。明治、大正、昭和、平成4つの時代を生きた83年の生涯だった。
「あのカレーはみんなを集めるためにつくるて言い出しよったんやろなあ。みんなあれが好きやったんよう知っとったさかいなあ。最後の別れのつもりやったんやろう」
父の言葉に異を唱える者はいなかった。
祖母が亡くなってから何度か『あーちゃんのカレー』を再現しようとしたが無理だった。その味は遠い記憶の中にだけ残っている。白い『あーちゃんのカレー』の味も。
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それでも人生は続く。生きることが前衛。踊ることがレジスタンス。人生に完結はあるのか?僕らはそれぞれの到達点をざまざまな想いを込めて踏みしめているだけかもしれない。でも、何かに挑み続けるというのはそういうことなんだと思う。そうして、完結するよりも挑み続けていられることに満足するのだ。そこに生きる意味があるのではないか。僕はそう思う。
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体裁:B5変形横型(182mm×210mm)
ISBN:978-4909819086
2020年4月15日 初版発行
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最後までおつきあいありがとうございました。
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次号は9月12日(金曜日)配信予定です。
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