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「清水哲男のサンクチュアリ」「揺れて歩く人々の問い 」は
〈琵琶湖一周徒歩の旅〉の途上のためお休みします
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横目流し目 再び歩く日
なぜ僕は琵琶湖一周を歩くのか

53年前のことです。
京都の高校1年生、15歳の僕は、はじめての旅に出ました。
40日間の夏休みを使って、琵琶湖を一周歩こうと決めたのです。高校生活がはじまったものの、あらゆることに興味が持てず、毎日にうんざりしていました。「歩けばなにか変わるかもしれない」。そんな小さな希望と不安をポケットに詰めて出発したのでした。
それ以来、僕は歩き続けてきました。
国内では列島の輪郭を「長距離ランナーの孤独」という小説がある。アラン・シリトーだったか。
陸上で中・長距離を走っていた僕には、あの物語にどこか他人事ではないシンパシーを覚えた。長距離を“歩く”こともまた、同じように孤独だ。
琵琶湖一周徒歩の旅に出た。
1日およそ15キロを4日歩き、1日休む。そのサイクルを4回繰り返せば、約240キロ。ちょうど琵琶湖をぐるりと回れる距離になる。
だが、その一歩一歩は孤独と向き合う時間そのものだ。人と話す機会は少なく、いや、ほとんどない。黙々と歩く。前だけを見て歩く。「なんでこんなことしているんだろう」と思う時もある。でも、一度始めたからには最後までやり遂げないと、自分に言い訳が立たない。そうして自分の背中を押す。
だからこそ、歩き終えたあとには人が恋しい。誰かと話し、酒を飲み、笑い合って、孤独に晒された心を温め直したくなる。
歩き出して2日目。
降ったり止んだりする雨の中、JRおごと温泉駅から和邇駅までの約14キロを歩く予定だった。午前11時に出発し、午後2時頃には目的地まであと2キロほど。そこで急に、空腹に堪えられなくなった。ラーメン屋でもあればいいのに、道沿いには何もない。ただ、小洒落たうなぎ屋が一軒ぽつんと立っているだけだ。
「うなぎか……高いよな」と思いながらも、空腹には勝てず飛び込んだ。
平日ランチ限定のひつまぶし定食が目に入った。3000円を超えていて、昼飯としては少々奮発だ。でも「ここまで歩いたご褒美だ」と背中を押す。結果は、ボリュームも味も期待以上だった。
客は僕ひとりだったこともあり、お店のおねえさんがずっと話し相手になってくれた。
「京都から通ってるんです」と聞けば驚き、
「浜大津から歩いてきたんです」と言えば驚かれた。
普段なら人に話しかけられ続けるのは少し煩わしい。でも、その日は妙にうれしかった。誰かと話すことが、こんなにも心を軽くするのかと思うほど、ほっこりとした時間だった。
店を出ると、雨は上がり、雲の裂け目から青空がのぞいた。
そう、僕は青空の下を歩きたかったんだ。
陽の差す方へ向かって歩こう。そんな気持ちでその日のゴールを目指した。
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Prof.Tagawaの揺れる音楽道 #97
The Solitude of the Walker
I set out on a journey to walk around Lake Biwa.
My plan was simple: walk about fifteen kilometers a day for four days, then take a day off. Repeat the cycle four times, and I would have traced roughly 240 kilometers—the exact distance needed to encircle the lake.
But each step was more than just a measure of distance; it was a dialogue with solitude itself. Opportunities to speak with anyone were scarce—no, almost nonexistent. I walked in silence, my gaze fixed firmly ahead. At times, a question would creep in: “Why am I doing this?” Yet once I had set foot on this path, I knew I had to see it through. To stop would be to betray myself, to deny the journey its meaning. And so, step by step, I urged myself onward, pushing against the quiet weight of my own back.
Music by Fumihiko Tagawa
Photography and Writing by Tetsuo Shimizu
©︎F.Tagawa, T.Shimizu & OFFICE432 2025
遊歩者の孤独
琵琶湖一周徒歩の旅に出た。
その一歩一歩は孤独と向き合う時間そのものだ。人と話す機会は少なく、いや、ほとんどない。黙々と歩く。前だけを見て歩く。「なんでこんなことしているんだろう」と思う時もある。でも、一度始めたからには最後までやり遂げないと、自分に言い訳が立たない。そうして自分の背中を押す。
音楽:田川文彦
写真と文:清水哲男
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しみてつコラム
歩く者の孤独

「長距離ランナーの孤独」という小説がある。アラン・シリトーだったか。
陸上で中・長距離を走っていた僕には、あの物語にどこか他人事ではないシンパシーを覚えた。長距離を“歩く”こともまた、同じように孤独だ。
琵琶湖一周徒歩の旅に出た。
1日およそ15キロを4日歩き、1日休む。そのサイクルを4回繰り返せば、約240キロ。ちょうど琵琶湖をぐるりと回れる距離になる。
だが、その一歩一歩は孤独と向き合う時間そのものだ。人と話す機会は少なく、いや、ほとんどない。黙々と歩く。前だけを見て歩く。「なんでこんなことしているんだろう」と思う時もある。でも、一度始めたからには最後までやり遂げないと、自分に言い訳が立たない。そうして自分の背中を押す。
だからこそ、歩き終えたあとには人が恋しい。誰かと話し、酒を飲み、笑い合って、孤独に晒された心を温め直したくなる。
歩き出して2日目。
降ったり止んだりする雨の中、JRおごと温泉駅から和邇駅までの約14キロを歩く予定だった。午前11時に出発し、午後2時頃には目的地まであと2キロほど。そこで急に、空腹に堪えられなくなった。ラーメン屋でもあればいいのに、道沿いには何もない。ただ、小洒落たうなぎ屋が一軒ぽつんと立っているだけだ。
「うなぎか……高いよな」と思いながらも、空腹には勝てず飛び込んだ。
平日ランチ限定のひつまぶし定食が目に入った。3000円を超えていて、昼飯としては少々奮発だ。でも「ここまで歩いたご褒美だ」と背中を押す。結果は、ボリュームも味も期待以上だった。
客は僕ひとりだったこともあり、お店のおねえさんがずっと話し相手になってくれた。
「京都から通ってるんです」と聞けば驚き、
「浜大津から歩いてきたんです」と言えば驚かれた。
普段なら人に話しかけられ続けるのは少し煩わしい。でも、その日は妙にうれしかった。誰かと話すことが、こんなにも心を軽くするのかと思うほど、ほっこりとした時間だった。
店を出ると、雨は上がり、雲の裂け目から青空がのぞいた。
そう、僕は青空の下を歩きたかったんだ。
陽の差す方へ向かって歩こう。そんな気持ちでその日のゴールを目指した。
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