INDEX

  1. 横目流し目 はじめよう、少し不便な生活
  2. Prof. Tagawa の揺れる音楽道 #100
  3. 清水哲男のサンクチュアリ 酒場みつばち
  4. 時空を超える1冊 「仕事!」
  5. 揺れて歩く人々の問い
  6. しみてつコラム はじめの一歩
  7. 清水哲男新刊書のご案内
  8. ご購入のご案内

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横目流し目 はじめよう、少し不便な生活

写真は本文と関係ありません

SNSを開くたび、私の好みにあう商品広告や、私と同じような考え方の意見がタイムラインを埋め尽くします。現代を生きる私たちにとって、これは日常の風景と言ってもいいでしょう。しかし、この一見心地よい最適化の裏側で、アルゴリズム、AIは私の「個性」を、私が考えるものとは全く異なる形で定義し直しているようです。
アルゴリズムにとっての個性とは、人間味あふれる内面や豊かな感性ではありません。それは「次にどのような刺激を与えれば、このユーザーはクリックや購入という行動を起こすか」という反応パターンの集合体に過ぎないと言えます。頻繁に現れる同じような広告は、AIが私の行動を「攻略済み」であるという宣言に他なりません。私は「選んでいる」つもりで、実は効率的に「動かされている」のです。私の「個性」が把握されているのです。
「個性の把握」がもたらす最大の懸念は、自己決定権の浸食と「フィルターバブル」の発生だと言います。アルゴリズムが「見たい情報」だけを選別し、心地よい情報の泡の中に私を閉じ込めると、私に見える世界は偏り始めます。自分の考えが常に肯定される環境では、多様な視点は失われ、「自分の正しさ」への疑いが消えていくのです。
この泡の中では、同じ意見が反響し、増幅される「エコーチェンバー」という現象が加速し、異なる意見を持つ他者の存在すら知覚できなくなり、社会的な分断は深まるばかりです。アルゴリズムが導き出す「最適解」は、個人の好みを満たす一方で、他者への想像力や、未知の情報と出会う「偶然性」を奪い去ってしまうのです。AIが個性の把握を通して、私を攻略していると言っても過言ではないでしょう。
そうならないためには、さまざまな情報にすぐに反応せずに一旦立ち止まり、私を包もうとする泡に針を刺す冷静さが必要なのです。あえて「興味のないこと」に触れ、ノイズを受け入れる余裕を持つこと。効率が悪くなり、手間が増えるかもしれません。でも、それが数値化された反応パターンの外側にある、本当の意味での「個性」を守るための唯一の手立てとなるのではないかと考えています。
これ以上私の個性を手放さないために、少し不便な生活に戻ろうかと思っています。
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Prof.Tagawaの揺れる音楽道 #100

La porte de la nuit

La porte de la nuit
La nuit est venue.
夜の扉
そして闇は訪れた
音楽:田川文彦
写真:清水哲男
制作:office432
©︎ F.Tagawa, T.Shimizu & office432 2026
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清水哲男のサンクチュアリ
居酒屋からこの国の未来が透けて見える

酒場みつばち@京橋, 大阪市都島区

サンクチュアリが軒を並べる、文字通りの酒飲みの聖地京橋。朝8時から開いている店を目指した日曜日の午前11時。しかしお目当ての店はすでに満席だった。日曜日とはいえ朝から酒かと、自分を棚に上げて先客たちを心の中で愚痴る。休みの日ともなれば朝から飲みたいのが酒飲みの性だ。仕方がない。次の店だと最近開店した話題の店みつばちへ。

お通し。ハイボールとレモンサワーはともに49円

『100品以上の九州料理が楽しめる大衆居酒屋』だそうだ。とにかくでかい、広い店だ。1階はカウンター席、2階にはテーブル席、小上がり、座敷でざっと目算しただけでも約200席は下らないようだ。
ここが今京橋界隈でも話題になっている理由のひとつは、ドリンク類が激しく安いことだろう。生ビール、サワー類、ハイボール、日本酒、焼酎が170円(税抜き・オールタイム)で飲める。私の好物であるサッポロ赤星大瓶は340円だ。しかも開店から18時までならハイボール、サワー(プレーン・レモン)がなんと49円で何杯でも飲めるのだ。10杯飲んでも490円だ。これは驚きというよりない。物価高、インフレが問題になっているのに、これで利益が出せるのかなどと思ってしまう。が、飲み代、メシ代はデフレになって欲しいと、密かに願う……。
博多とり皮串(1本80円)

オーダーは新規開店の店では今や主流になりつつあるQRコードで。年寄りの酒飲みにはちょっと辛いシステムだが、口頭でのオーダーにも気軽に応じてくれる。人手不足で外国人を働き手として期待しなければならない店側にとっては、日本語不要のQRコード活用のオーダーシステムは、今後当たり前となるだろうな。ホール人員の労働軽減にもつながるということか。こういうシステムを駆使して人件費を節約し、低価格を実現しているということだろうか。居酒屋の店先からこの国の現状と未来が透けて見える気がする。
鶏の唐揚げ(1個90円)

カリカリ揚げ豚足(380円)

料理もしっかり手間暇がかけられていると感じた。お通しは水菜の揚げ浸し、タルト生地に入ったカボチャの煮物、魚の骨せんべい。レモンサワーとハイボールでこれをつつき料理を待つ。我々が注文したのはこの店の名物という博多とり皮串(1本80円)、鶏の唐揚げ(1個90円)、自家製さつま揚げプレーン(260円)、カリカリ揚げ豚足(380円)、馬ユッケ(880円)そして特製ひとくち餃子20個(920円)だ。ドリンクだけではない、料理もリーズナブルだ。
馬ユッケ(880円)

自家製さつま揚げプレーン(260円)

料理のメインは100種類にも及ぶ九州料理だという。確かに博多の餃子、もつ料理、大分のとり天、熊本の馬肉、鹿児島のさつま揚げ、鳥刺しなどがメニューに並ぶ。さらにはにぎり寿司まであるのだ。
これは話題になるはずだ。
ひとりでもカウンターが長いので大丈夫。大人数でも2階のテーブル席でOK。
新しい時代のサンクチュアリとはこんな形なのかもしれないな。
特製ひとくち餃子20個(920円)

価格はすべて税抜き
営業時間、予約については直接問い合わせてください
酒場みつばち
大阪市都島区東野田町3-6-24
JR京橋駅より徒歩2分
地下鉄長堀鶴見緑地線京橋駅より徒歩4分
京橋駅から164m

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時空を超える一冊

「仕事!WOKING」 スタッズ・ターケル 中山容 他訳 晶文社 1983年 ISBN4-7949-5661-4 C0036

1972年、スタッズ・ターケルというジャーナリストが『仕事!』という分2025年11月24日、午前4時。遠足前の小学生のように目が覚めてしまった。70歳になった身体は、期待と不安の入り混じった高揚感に包まれている。前夜は荷物や服のチェックを繰り返し、寝付けぬまま夜を明かした。
55年前、16歳の私はどうだったか。母が呆れるほど朝食を腹に詰め込み、不安など微塵もなかった。母が持たせてくれた大きなおにぎり五つの包みをリュックに入れ、テントとラジカセを積み上げた。当時の私にとって、音楽は孤独を分かち合う不可欠な旅の道連れだった。雨具、懐中電灯、正露丸にヨードチンキ。何があっても歩き続けると決めた少年の荷物は、外の世界へと枠を広げていくための装備だった。
今回の荷物は、当時の七分目ほどだ。毎日宿舎に戻るためテントはいらない。音楽も本もスマートフォンの中に収まっている。モバイルバッテリーが命綱という現代的な不安を抱えつつ、代わりに加わったのは尿漏れパッドとクマ鈴だ。街中で鈴を鳴らす気恥ずかしさを捨てきれない自分に、16歳の私が「そいつがいちばんのお荷物だな」と笑っている気がした。
宿舎を出て京都駅から山科へ、そこから京阪京津線に乗り換える。かつて路面を走る大きな車輌に心躍らせたこの路線は、地下鉄乗り入れに伴い姿を変えたが、逢坂山を越える急勾配と急曲線は健在だ。琵琶湖が近づくにつれ高まる緊張感は、半世紀前と変わらない。
びわこ浜大津駅に降り立つ。かつて電車が直進して突き当たった平面交差の風景は消え、街は大きなビルに囲まれていた。変わり果てた街並みを寂しいとは思わない。風景の変化を歴史として受け入れること。同じ風景を今の私がどう見、どう感じるのかを確かめることこそが、この旅の目的なのだ。
振り替え休日の賑わいから離れ、水辺へ向かう。そこには55年前と同じ琵琶湖があった。ゆったりと寄せる波、キラキラと光る水面が「おかえり」と迎えてくれているようだった。
午前10時ちょうど、私ははじめの一歩を踏み出した。1キロ14分のペースで、県道558号を北へ。かつての自分の後ろ姿を追い、自分の内なる枠の奥深くへと向かう、新しい旅の始まりだった。厚い本を書いた。
植木職人、受付嬢、床屋、弁護士、セールスマン、クレーン車運転手、洗面所係、ガス検針員、床屋、ジャズ奏者、長距離トラック運転手、製本職人、政府広報担当官……。
世間にあるあらゆる仕事についている、無名の133人にインタビューした「職業と人」に関する事実、つまり働くことの喜び、苦悩、そして誇りなどが本人の言葉で語られる内容だ。
初版が日本で出版されたのは1983年。僕が20代最後の年を迎えた年だ。初版が在庫切れになった後、手に入らなくなり僕のところにも貸して欲しいという人は多かった。それが河出書房新社から上下分冊の文庫本で復刊されることになったと聞いた。
久しぶりに書架から引き抜いてペラペラめくってみた。これを初めて手にしたのは1983年の出版直後、今の物書きという仕事を始めた頃だった。強烈な刺激を受けたことを覚えている。仕事をしている本人の口から語られるその職業の事実は、僕らが普段触れられるものではなく、よくこれだけの取材をしたなあと、まずそこに度肝を抜かれた。
コピーボーイという職業が目に止まった。給料、待遇で言うと編集助手以下の、料理屋で言うと追い回しみたいな……。でもちゃんと政治的思想を持ち、反権力を貫こうとし、ライフスタイルにこだわりを持とうとする。当然上司とぶつかり目をつけられたり、クビになったりする。しかし問題を抱えながら軋轢の中で自分の思う仕事を続けようとする。自分に似ていると思った、就職などしたくない、人に使われたくないと思いながら、社会に抗うようにもがいていた。コピーボーイのインタビューは彼のこの一言で締めくくられる。
「ぼくは精神の辺境開拓者になりたいんだ—-そういうところなら仕事だって苦役じゃあない」
コピーボーイのような133人の実在の人々が115の職業の職業について、自分の言葉で語る。仕事ってこういうものだし、働くってこういうことだと見せてくれる。教えてくれるんじゃない。見せてくれるんだ。
この本を読んだから、僕はこんな生き方をしてきたんじゃないかと思う。30歳を目前にしてこの本に出会ったことを幸せと呼ぶべきか……。
中山容さんを中心にした翻訳陣もいい。北沢恒彦さん、甲斐扶佐義さん、中川五郎さん、古川豪さん、神田稔さん、黒川創さん……。70年代の対抗文化の担い手たち、とりわけ京都のほんやら洞を拠点に、さまざまなムーブメントを起こした人たちだ。40年以上経った今でも刺激的な活動を続ける人は多い。
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揺れて歩く人々の問い
あなたの『お気に入りの1冊』を教えてください。


写真の本は『フライ・ドレッシング』。フライの巻き方の本です。フライフィッシングに関する本を山ほど読んできました。魚を釣るためではなく、フライフィッシングを通して生き方を学ぶために。
あなたはこれまで生きて本を読んできて、「この本がお気に入り」「大きな影響を受けた」「好きで繰り返し読んでいる」というような本がありますか?
あるいは「最近読んで面白かった」という本でもかまいません。あなたに影響を与えた本でもかまいません。そんな1冊があれば教えてください。コメントはこちらからどうぞ。
https://www.facebook.com/groups/1651099238372682/posts/3487436978072223/
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しみてつコラム
はじめの一歩/55年ぶりの琵琶湖一周徒歩の旅①

「おかえり」が聞こえた

2025年11月24日、午前4時。遠足前の小学生のように目が覚めてしまった。70歳になった身体は、期待と不安の入り混じった高揚感に包まれている。前夜は荷物や服のチェックを繰り返し、寝付けぬまま夜を明かした。
55年前、16歳の私はどうだったか。母が呆れるほど朝食を腹に詰め込み、不安など微塵もなかった。母が持たせてくれた大きなおにぎり五つの包みをリュックに入れ、テントとラジカセを積み上げた。当時の私にとって、音楽は孤独を分かち合う不可欠な旅の道連れだった。雨具、懐中電灯、正露丸にヨードチンキ。何があっても歩き続けると決めた少年の荷物は、外の世界へと枠を広げていくための装備だった。
今回の荷物は、当時の七分目ほどだ。毎日宿舎に戻るためテントはいらない。音楽も本もスマートフォンの中に収まっている。モバイルバッテリーが命綱という現代的な不安を抱えつつ、代わりに加わったのは尿漏れパッドとクマ鈴だ。街中で鈴を鳴らす気恥ずかしさを捨てきれない自分に、16歳の私が「そいつがいちばんのお荷物だな」と笑っている気がした。
宿舎を出て京都駅から山科へ、そこから京阪京津線に乗り換える。かつて路面を走る大きな車輌に心躍らせたこの路線は、地下鉄乗り入れに伴い姿を変えたが、逢坂山を越える急勾配と急曲線は健在だ。琵琶湖が近づくにつれ高まる緊張感は、半世紀前と変わらない。
びわこ浜大津駅に降り立つ。かつて電車が直進して突き当たった平面交差の風景は消え、街は大きなビルに囲まれていた。変わり果てた街並みを寂しいとは思わない。風景の変化を歴史として受け入れること。同じ風景を今の私がどう見、どう感じるのかを確かめることこそが、この旅の目的なのだ。2025年11月24日、午前4時。遠足前の小学生のように目が覚めてしまった。70歳になった身体は、期待と不安の入り混じった高揚感に包まれている。前夜は荷物や服のチェックを繰り返し、寝付けぬまま夜を明かした。
55年前、16歳の私はどうだったか。母が呆れるほど朝食を腹に詰め込み、不安など微塵もなかった。母が持たせてくれた大きなおにぎり五つの包みをリュックに入れ、テントとラジカセを積み上げた。当時の私にとって、音楽は孤独を分かち合う不可欠な旅の道連れだった。雨具、懐中電灯、正露丸にヨードチンキ。何があっても歩き続けると決めた少年の荷物は、外の世界へと枠を広げていくための装備だった。
今回の荷物は、当時の七分目ほどだ。毎日宿舎に戻るためテントはいらない。音楽も本もスマートフォンの中に収まっている。モバイルバッテリーが命綱という現代的な不安を抱えつつ、代わりに加わったのは尿漏れパッドとクマ鈴だ。街中で鈴を鳴らす気恥ずかしさを捨てきれない自分に、16歳の私が「そいつがいちばんのお荷物だな」と笑っている気がした。
宿舎を出て京都駅から山科へ、そこから京阪京津線に乗り換える。かつて路面を走る大きな車輌に心躍らせたこの路線は、地下鉄乗り入れに伴い姿を変えたが、逢坂山を越える急勾配と急曲線は健在だ。琵琶湖が近づくにつれ高まる緊張感は、半世紀前と変わらない。
びわこ浜大津駅に降り立つ。かつて電車が直進して突き当たった平面交差の風景は消え、街は大きなビルに囲まれていた。変わり果てた街並みを寂しいとは思わない。風景の変化を歴史として受け入れること。同じ風景を今の私がどう見、どう感じるのかを確かめることこそが、この旅の目的なのだ。
振り替え休日の賑わいから離れ、水辺へ向かう。そこには55年前と同じ琵琶湖があった。ゆったりと寄せる波、キラキラと光る水面が「おかえり」と迎えてくれているようだった。
午前10時ちょうど、私ははじめの一歩を踏み出した。1キロ14分のペースで、県道558号を北へ。かつての自分の後ろ姿を追い、自分の内なる枠の奥深くへと向かう、新しい旅の始まりだった。
振り替え休日の賑わいから離れ、水辺へ向かう。そこには55年前と同じ琵琶湖があった。ゆったりと寄せる波、キラキラと光る水面が「おかえり」と迎えてくれているようだった。
午前10時ちょうど、私ははじめの一歩を踏み出した。1キロ14分のペースで、県道558号を北へ。かつての自分の後ろ姿を追い、自分の内なる枠の奥深くへと向かう、新しい旅の始まりだった。
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【「揺れて歩く ある夫婦の一六六日」概要】
頁数:192p
体裁:B5変形横型(182mm×210mm)
ISBN:978-4909819086
2020年4月15日 初版発行
価格:2420円(本体2200円+税)

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